GitHubは「AI時代」に生き残れるのか?

Shinji Saito
Shinji Saito

代表取締役社長 / 文部科学省 最高情報セキュリティアドバイザー

シンジです。他のシンジの記事でも公開していますが、当社では様々なSaaSを解約したり無料版にプランを落としたりしていて、まさに「SaaS is Dead」が今現在シンジ自身には起きています。ただしこの現象は、巨大プラットフォーマーには適用されないというのがシンジの見立てです。

そもそもAI時代が来る前からSaaS is Deadは起きています。買収統合、Googleさんでよくある気づいたらサ終、経営難で終了。今起きているのはあくまで一部のユーザーがSaaSから乗り換える価値判断をしただけの話です。

シンジが公開している範囲で当社では、Web制作のStudio、X管理のSocailDog、SaaSという枠ではないですがWordPress、iPaaSのn8nが、AIの力によって解約またはFreeプランへ移行済みです。社内では他にもSaaSの解約準備が進んでいて、SalesforceなどのCRM全部、WorkatoやMakeなどのiPaaS全部、以前から取り組んでいて巨大な作業をしているのがSlackの解約準備。このあたりは結論が出ていないので実際解約するのかどうかは決まっていませんし、この記事の対象はもっと巨大なプラットフォームGithubであり、あくまで未来の話です。解約しないSaaSだってたくさんあります。常に行われている議論は、「今は買った方がコスパいいよね」なのかどうか。個人的には、今どうなったかという結果が大事であって、未来どうなるかなんて議論してもアレだなって思うたちなのですが、それにしてもGithubってAI使ってるとだるいなーと思ってしまったのでこの記事です。

Claude Codeのおかげで、ほぼ活動してなかった自分のGithubが活動しまくってるんですが、Githubって人間にとってはいいかもだけど、AIにとってはダルいところ多くねえかって思ってるんです。非エンジニアにとってはGithub自体がわけわからんっていうのはさておき。
issue → PR → review → merge → deploy。この流れ、すべて「人間がコードを書き、人間がレビューし、人間が承認する」ことを前提に設計されています。でも、AIエージェントがコードの主要な書き手になりつつある今、この前提自体が揺らぎ始めているのではないか。


前GitHub CEOが「GitHubの外」に出た理由

まず、この話の起点になる事実から。

GitHubの前CEO Thomas Dohmkeは、2021年からCEOを務め、Copilotの成長を主導した人物です。彼は2025年8月にGitHubを退任し、Entireというスタートアップを設立しました。

https://entire.io/

Entireは$60M(約90億円)のシードラウンドを$300M(約450億円)のバリュエーションで調達しています。dev toolスタートアップのシードとしては過去最大規模です。投資家にはMicrosoft M12(MicrosoftのVC部門)も含まれています。

Dohmkeの発言がまさに核心を突いています。

つまり、GitHubを最も深く理解していた人物の一人が、GitHubの外側に新しい開発基盤の機会があると判断して、自ら出て行ったわけです。

ただし、ここで注意が必要です。これを「GitHub内部からの変革は不可能だという証明」と読むのは飛躍です。創業者は自社の市場機会を最大化するナラティブを語るインセンティブがあります。Dohmke退任は決定的証拠ではなく、有力なシグナルとして位置づけるのが妥当です。


Entireは何を作ろうとしているのか

Entireのプラットフォームは3層構成です。

第1層:Git互換データベース。AI生成コードを統合管理します。従来のGitリポジトリと違い、エージェントがAPIエンドポイント経由でコードだけでなく「その背景にある推論」もクエリできる設計です。

第2層:セマンティック推論レイヤー。複数のAIエージェント間でコンテキストを共有し、協調作業を可能にします。

第3層:AIネイティブUI。エージェントと人間のコラボレーション前提で設計されたインターフェースです。

最初のプロダクト「Checkpoints」は、Claude CodeとGoogle Gemini CLIに対応するオープンソースのCLIツールです。AIがコードを生成した際のプロンプト、トランスクリプト、推論ステップ、トークン使用量をGitのコミットに紐付けて記録します。

これが解決しようとしている問題は明確です。Gitは「何が変わったか」を保存するが、「なぜ変わったか」は保存しない。AIエージェントが1セッションで数千行を生成する状況では、このコンテキストの欠落が蓄積していきます。

ただし、この主張には誇張も含まれます。現実の開発では、issue、design doc、ADR、PR discussion、review comment、commit messageなどが「なぜ」を分散的に担っています。既存運用が何も説明責任を持てないかのような描き方は、Entireの製品ナラティブをそのまま持ち込んだものです。

とはいえ、核心的な問いは残ります。これらの既存コンテキストはすべて人間が能動的に書くアーティファクトです。AIが主要なコード生産者になる世界で、コンテキスト生成自体がコード生産速度にスケールするかどうかは、まだ答えが出ていません。


OpenAIもGitHub代替を検討中?

2026年3月3日、The InformationがOpenAIによるGitHub代替コードホスティングプラットフォームの開発を報じました。Reutersが追随報道しています。

ただし、Reuters自身は独自に検証できていないと明記しており、OpenAI・GitHub・Microsoftはいずれもコメントしていません。初期段階で、完成には数ヶ月かかり、社内用に留まるか商用化するかも未定とされています。

報道ではGitHubの障害増加が契機とされていますが、この因果関係自体も報道ベースであり独立検証はされていません。したがって、これは「競争の可能性が浮上した段階」であり、「OpenAIがGitHubの商用競合になる」と断定するのは時期尚早です。


GitHubは何もしていないわけではない

それでも考慮すべきなのは、GitHubの防衛力を過小評価するな、ということです。

まず、GitHubの規模を確認します。Octoverse 2025(公式レポート)によると、GitHubには1.8億人超の開発者、6.3億プロジェクトが存在し、年間5.187億件のPRがマージされています。Copilotの有料サブスクライバーは470万人(前年比+75%)で、Fortune 100の90%が利用しています。GitHub Actionsは年間115億分使われています。

そしてGitHubは、AI時代への対応として以下を打ち出しています。

Copilot coding agent:issueをCopilotにアサインし、自律的にPRを生成します。2025年5月〜9月だけで100万件超のPRが作られました。

Agent HQ:Copilot、Claude、Codex等のマルチエージェントを一元管理するダッシュボードです。特定のAIにロックインするのではなく、エコシステムハブとしてのポジションを目指しています。

Agentic Workflows:Markdownで定義し、GitHub Actions上でAIエージェントが実行するワークフロー。2026年2月にテクニカルプレビューとして公開されました。read-only by default、safe outputs、network isolationといったセキュリティ設計が特徴です。

GitHub自身は、Agentic WorkflowsをCI/CDの代替ではなく補完と明確に位置付けています。

この位置付けをどう読むかは、論者によって分かれます。エンタープライズ向けの意図的な保守設計(監査・権限・再現性の維持)とも、非決定論的なAI処理を既存の決定論的パイプラインに収める際の構造的制約の表出とも解釈できます。おそらく両方が同時に正しいのだと思います。


PRレビューはボトルネック化するのか

マージPRが前年比29%増加する一方で、人間のレビュー能力には物理的な上限があります。Gartnerは「2026年までにAI支援開発が新規エンタープライズコードの半分以上を占め、レビュー・検証プラクティスに前例のない圧力をかける」と予測しています。

ここで面白いのが、この問題がGitHubに不利とは限らないという逆のロジックです。

Stack Overflow 2025によると、AI出力を信頼しない開発者は46%、高く信頼するのはわずか3%です。METRのランダム化比較試験(2025年7月、arXiv掲載)では、経験豊富なOSS開発者がAIツールにより実際には19%遅くなったという結果も出ています(開発者自身は20%速くなったと信じていたにもかかわらず)。

つまり、AI生成コードの信頼がまだ低い現状では、PRレビュー、ブランチ保護、権限分離、監査ログといった既存のガバナンス構造は不要になるのではなく、むしろ必要性が増すのです。これはGitHub側のアドバンテージとして読めます。

ただし、この論理には限界もあります。AI生成コードの比率が上昇し続け、かつAI自身がレビューも行うようになった場合(AIがAIのコードをレビューする構造)、人間中心のPRレビューモデルの前提自体が崩れます。その閾値がいつ来るかは不明ですが、トレンドの方向性は明確です。


AI生成コードの比率について

「41%のコードがAI生成・支援」という数値は複数の調査で報じられていますが、定義はソースごとに揺れています。GitHub公式のOctoverse 2025で直接確認できるのは「80%の新規開発者が初週にCopilot使用」「110万超のパブリックリポジトリがLLM SDK使用」等の周辺指標であり、「41%」という数値そのものではありません。

Gitclearのデータとして報じられている分析(420万開発者対象)では、本番コードにおけるAI執筆比率は26.9%(2025年Q4)とされています。「AI生成」と「AI支援」の定義が異なるため、数値には幅があります。

ただし、AI利用の拡大傾向自体は複数の独立したソースで整合しています。Stack Overflow調査でもGitHubの指標でも、方向性は一致しています。


イノベーターのジレンマは再現するのか

GitHubの現在のAI対応(Copilot agent、Agent HQ、Agentic Workflows)は、すべて既存のGit/PR/Actionsアーキテクチャ上のインクリメンタルな拡張です。これは1.8億人のユーザーベースとの互換性を維持する合理的な戦略であると同時に、クリステンセンが記述した持続的イノベーションのパターンでもあります。

EntireやOpenAIは、既存のユーザーベースを持たないがゆえに、SDLCをゼロから再設計できます。これは破壊的イノベーションのパターンに類似します。

ただし、これが実際に発現するかは以下の条件に依存します。

  • AIエージェントが生成するコードの比率が、人間のレビュー能力を構造的に超える閾値に達するか
  • EntireやOpenAIが、エンタープライズに必要な監査・権限・コンプライアンス要件を満たすプロダクトを出荷できるか
  • GitHubが既存アーキテクチャの制約内で、十分な「AIネイティブ体験」を提供できるか

これらの条件がいつ・どの程度満たされるかは現時点では予測不能です。歴史的には、既存基盤の延長線上の適応がゼロベース再設計に押される例は少なくありませんが(メインフレーム→C/S、オンプレ→クラウド等)、既存基盤が十分に適応して生き残ったケースも存在します(Windows、Excel等)。これらはあくまで歴史的アナロジーであり、GitHubの件そのものの実証ではない点に注意が必要です。

したがって、イノベーターのジレンマの適用は確定的な予測ではなく、リスクシナリオとして認識すべきです。


セキュリティ・ゼロトラスト視点での示唆

シンジの本業がゼロトラスト・SaaSセキュリティなので、この観点も整理しておきます。

AIエージェントのアイデンティティ管理。AIエージェントがコードをコミットする世界では、「誰が(what identity)コードを書いたか」の管理がゼロトラストの新しい課題になります。GitHub CopilotのPRには[bot]表示がありますが、複数エージェントが並行稼働する環境での管理はまだ成熟していません。

監査トレイルの変容。現在のSOC 2監査では「承認済みPR」がコード変更の証跡として機能しています。AI生成コードの比率が上昇した場合、「PRが承認された」だけでは「なぜその変更がなされたか」の監査証跡としては不十分になりえます。EntireのCheckpointsはこの課題に対する一つの回答ですが、エンタープライズレベルでの検証はまだありません。

サプライチェーンリスク。GitHubの障害増加(Azure移行期)は、GitHub単体への依存リスクを改めて顕在化させました。コンプライアンスポリシーで「GitHub PR」を名指ししている組織は、製品名ではなく要件(「バージョン管理されたピアレビュー済みコード変更」等)で定義し直すことを検討すべきです。


時間軸別の見通し

短期(2026年後半〜2027年前半):GitHub優位が続く公算が大きいです。Entireは最初のエンタープライズ導入事例を作れるかが試金石です。AI生成コードの信頼がまだ低い間は、既存のガバナンス構造を持つGitHubが安全な選択肢となります。

中期(2027年〜2028年)【仮説シナリオ】:AI生成コード比率がさらに上昇し、AIによるコードレビューが一般化し始めた場合、GitHubの人間中心ワークフローに構造的な緊張が本格化する可能性があります。EntireやOpenAIがエンタープライズ要件を満たすプロダクトを出荷できていれば、本格的な競争が始まります。

長期(2029年〜):予測困難です。GitHubのAI統合がどこまで深くなるかに依存します。


結論


今後の観測ポイント

最後に、この話の行方を追うために見ておくべき指標を整理します。

GitHub側

  • Agentic WorkflowsのGA化(2026年後半が目安)
  • Azure移行完了後の障害率正常化
  • Copilot agentの本番開発フローへの浸透度

Entire側

  • Checkpoints以外の正式プロダクト(2026年後半予告済み)
  • 最初のエンタープライズ導入事例
  • GitHub/GitLab運用からの実際の置換事例

OpenAI側

  • 社内基盤か商用化かの判断
  • Codexとの統合深度、エンタープライズ機能の有無

業界全体

  • AI生成コード比率のさらなる上昇
  • AIによるコードレビューの一般化

この構造変化は始まったばかりです。どう転ぶかはまだ分かりませんが、注視する価値は確実にあります。

AIの進化は爆速です。ついこの前までClaude CodeのOpus4.6が最強とか言われてたのに、昨日今日でOpen AIのCodex 5.4が最強だともてはやされてます。来年の今頃どうなってるかなんてマジで分かりません。

AIにとって都合のいい SaaS が生き残る手段のひとつになるのかもしれませんね。


出典

本記事の主要な情報源を、信頼度別に整理します。

一次情報・高信頼

有力報道・中信頼

参考情報(利害関係あり・ベンダー発信)

以下は有用な参考情報ですが、発信元が自社製品を持つベンダーであるため、独立した検証として扱うべきではありません。

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