上司の“思考の型”をAI壁打ちにして、PM力を鍛えてみた|PMのAI活用

Ryoya Mizukami
Ryoya Mizukami

プロジェクトマネージャー

はじめに

どうも、りょーやです。

PMとして業務の中で、AIをいろいろな場面で活用しようと試しています。今回はそのなかの一つ、尊敬する社内の上司の“思考の型”をもとに、AIの壁打ち相手をつくって、自分の思考を鍛えている使い方を紹介します。

生成AIを業務に取り入れたい。でも、思考力や判断力までAIに依存させたくはない。そう感じている方に向けた、実践ベースの活用例です。

AIというと、答えを出してもらう、文章を作ってもらう、調べてもらう、といった使い方がまず思い浮かびます。ただ、今回の使い方で大事にしているのはそこではありません。

このAIで鍛えたいのは、単に正しい答えを出す力ではなく、自分の頭の中で起きていることを、自分で観察し、必要に応じて組み替える力です。言い換えると、AIに考えてもらうのではなく、AIに自分の思考を打ち返してもらう使い方です。

きっかけ:議論を、もう一段深めたかった

出発点は、会議や打ち合わせの後に「あの場面は、もう一段深く打ち返せたはずだ」と振り返る経験でした。

考えの中身はある。それを、その場で最も伝わる構造に組み立て、相手の反論にも即座に意味のある形で返せれば、議論はもっと深められる。そう感じる場面が何度かありました。

上司に相談したところ、「論理的思考力を鍛えるとよい」とアドバイスをもらいました。PMにとって議論の質は、顧客への提案やプロジェクトの意思決定の質に直結します。鍛えれば必ず伸ばせる領域だと考え、方法を探し始めました。

具体的に鍛えたかったのは、結論→理由→根拠という型、結論・前提・仮説の区別、自分が無意識に置いている前提への気づき(メタ認知)といった力です。こうしたものは個人のセンスとして片付けられがちですが、素質任せにせず、自分だけでなく周囲とも練習できる形にしたいと考えていました。

なぜ、上司の“思考の型”だったのか

本や一般的なロジカルシンキング教材でも、学べることはあります。もちろん、それも大事だと思います。

ただ、自分にとっては、普段の打ち合わせで咄嗟の打ち返しが優れていると感じていた上司の思考の型を真似する方が、より実務に近く、自分に合っていそうでした。

その上司は、こちらの話を聞いたうえで、何が結論で、何が前提で、どこがまだ仮説なのかを素早く切り分けます。さらに、いきなり答えを出すのではなく、問い返しながらこちらに気づかせてくれることが多い。自分もその型を少しでも身につけられれば、意味のある議論をもっと深められるのではないかと感じました。

そこで、その上司が大事にしている論理的思考の組み立て方をアウトプットしてもらい、それをトレーニングの土台にしました。

答えを出すAIではなく、思考を鍛えるAI

このAIは、答えを教えてくれる先生というより、自分の思考を打ち返してくれる壁に近い存在です。

壁打ちの壁は、代わりに試合をしてくれるわけではありません。点も取ってくれません。ただ、自分が打った球を返してくれる。だからこそ、自分のフォームの崩れに気づき、何度でも修正できます。

今回つくったAIも同じです。返ってくるのは、基本的には自分が出した考えです。といっても、ただ跳ね返すだけの壁ではありません。気づきを促す角度をつけて返してくる、答えを先に言わないコーチのような壁です。AIの役割は、脳の肩代わりをすることではなく、自分の思考を見える形で打ち返し、どこがズレているのかを考え直せるようにすることです。

そのため、このAIにはすぐに答えを出さないようにしています。まず自分で考え、立場を置き、理由を組み立てる。そのうえで、AIに問い返してもらう。この順番を崩さないようにしています。

鍛えている力は、大きく3つあります。

  • 瞬発力と言語化:問いを受けたその場で、根拠のある主張を素早く組み立てて口に出す力
  • 論理構造の把握:結論・前提・仮説を切り分け、検証していない想定を事実のように扱っていないかを見る力
  • メタ認知:自分がなぜその前提を置いたのか、なぜその判断をしたのかを振り返る力

最初からすべてを完璧にできる必要はありません。まずは構造を持って考える経験を増やす。そのうえで、自分の思考のクセに気づいていく。そういう順番で鍛えています。

どうやって壁打ち相手をつくったか

やったことはシンプルです。

まず、上司に「論理思考の型」をアウトプットしてもらいました。物事をどう分解し、どんな順序で考え、どこに着目して結論にたどり着くのか。その思考の進め方を、本人の言葉で言語化してもらった形です。あわせて、自分が普段その上司から受けているフィードバックの観点も整理しました。

先にはっきりさせておくと、ここで扱っているのは、特定の個人の人格や話し方を再現することではありません。物事をどう分解し、どの順番で問い直し、どこで前提を疑うのかという、思考の進め方を抽象化したものです。

たとえば、次のような型です。

  • 抽象的な概念を、身近な体験やメタファーに置き換える
  • 一般化された主張を、暫定的な仮説として扱う
  • 表面的な機能や言葉ではなく、「なぜそうなっているか」を見る
  • 観察から仮説を立て、それを確かめる問いを設計する
  • わかっていても即答せず、相手が自分で気づけるように問い返す

一方、対話の雰囲気については、半分は遊び心、半分は続けやすさのための調整です。問い返しの間合いや、フィードバックで人に向き合うときの姿勢など、普段の指導で受けている印象に近いほうが壁打ちを続けやすかったので、対話スタイルとして整えました。

補足すると、これは本人に黙ってつくったものではありません。本人にヒアリングして、思考の進め方やフィードバックの観点をインプットしたうえで、トレーニング用の壁打ち相手として使っています。もちろん、社内の機密情報や個人情報は入れていませんし、AIの返答も「本人の意見」としては扱わないようにしています。

加えて、AIが答えを返すだけの存在にならないように、いくつかルールも入れています。

  • すぐに正解を出さない
  • まず本人に立場と理由を出させる
  • ヒントは一度に出しすぎない
  • フィードバックは、肯定 → 指摘 → 問い返しの順番にする
  • 模範解答を出す場合も、最後に振り返りの問いを添える

この「すぐに答えを出さない」設計が、一番大事だったと思います。

どう活用しているか

普段は、テーマと難易度を指定すると、それに沿ったお題を出してもらい、自分が答える、という使い方をしています。

お題も、単なるクイズではなく、思考のどの筋肉を鍛えるかに合わせて作っています。

たとえば、二択を迫って立場を決めるお題、トレードオフを整理するお題、複数の利害関係者の視点を同時に扱うお題、あえて自分が直感的に選ばない立場で考えるお題などです。「納期を優先してスコープを削るべきか」「一部のユーザーの強い要望を、全体のニーズとして扱ってよいか」といった、PMの実務に近いテーマも扱います。

どれも、きれいな正解を当てるためではありません。立場の取り方と、理由の組み立て方を鍛えるためのものです。

一例を挙げます。「夜型の人も朝型に変えるべきだ」という主張を分解する回でのことです。この主張は本来、「夜型の人も朝型に変えるべき」という結論の裏に、「朝型は万人に効く」というまだ検証していない仮説が隠れている構造です。ところが私は最初、このラベルを取り違えました。「他の人も変えるべき」という結論側の言い分を仮説として置いてしまい、本来の仮説(朝型は万人に効く)を別のものとして扱ってしまったのです。

ここでAIは、答えをそのまま教えません。まず「“仮説なのに『べき』で主張している”という嗅覚は鋭い」と、評価できる点を具体的に肯定します。そのうえで、**「料理でいえば、完成品(結論)と、まだ味見していないソース(仮説)を取り違えている」**というメタファーだけを示し、気づきを促してきました。

自力で並べ替えて正解にたどり着くと、今度は「帰納法から仮説推論への切り替わり」「n=1での一般化の妥当性」へと、問いを重ねて深掘りしていきます。自分が受けてきた指導に近い流れになっていて、この点はうまく機能していると感じています。

また、模範解答と“よくある失敗例”の対比で回答後に自己採点ができるため、相手がいなくても一人で壁打ちが成立します。上司や同僚に毎回頼むには重い反復練習も、AI相手なら気軽に始められます。

使ってみての手応えと、難しさ

何度も繰り返すうちに、お題に対してまず推論を立てる動きは、少しずつ速くなってきました。

ただ、それ以上に効いたのは、自分の回答に対して「何がどうズレているのか」を解説してもらえることでした。模範解答を読むだけではなく、自分の思考のどこで前提と仮説を取り違えたのか、どの理由が弱いのかを返してもらえる。ここがトレーニングとして大きかったです。

繰り返すうちに、問いを受けた瞬間に「この結論には、どんな根拠があれば相手を説得できるか、理解してもらえるか」を考える癖がつきました。咄嗟の場面での組み立ての精度は、これからもさらに磨いていきたい領域です。

AIだからこそ、何度でも、いつでもトレーニングを始められるのは明確な利点です。失敗を気にせず試せるので、まだ固まりきっていない考えの言語化や、あえて不利な立場での主張にも挑戦しやすいです。

一方で、難しさもあります。

一番気をつけたいのは、AIに思考そのものを外注してしまうことです。考える前にAIへ聞いてしまうと、鍛えたい筋肉を使わないまま答えだけを受け取ることになります。

最初は、すぐに答えを教えてくれないことにもどかしさしかありませんでした。ただ、地道に続けるうちに、自分で考えてから答え合わせする流れに意味があると感じるようになりました。先に答えを見るのではなく、ゼロから自分で考える。その癖が少しずつつき始めたことが、この使い方の一番大きな価値かもしれません。

もう一つは、AIが同調的になりすぎることです。「これで合っていますか?」と聞くより、「一番弱いところはどこか」「反対の立場ならどう崩すか」と聞く方が、トレーニングとしては効きます。

そして最後に、AIとの練習だけで完結しないこと。AIは練習場としては優秀ですが、本番の緊張感や、相手の表情を見ながら考える力は、人とのやりとりでしか鍛えられません。

AIで鍛えて、人と試す。この往復が大事だと感じています。

真似するなら、まず何を用意するとよいか

もし同じようなAI壁打ち相手を作るなら、最初に用意するのはこのあたりです。

  • 鍛えたい力:瞬発力、論理構造、メタ認知など
  • 思考の型:結論・理由・根拠、前提・仮説・事実の切り分け
  • お題の型:二択、トレードオフ、逆の立場、失敗の振り返り
  • フィードバックの型:肯定 → 指摘 → 問い返し
  • すぐに答えを出さないルール
  • 扱ってよいテーマ/避けるテーマ
  • AIに任せる範囲と、人間が必ず判断する範囲

最初から完璧なプロンプトを作る必要はありません。むしろ、目的を1つに絞り、お題の型を2〜3個用意し、答えを教えないルールとフィードバックの順番だけ決めて始めるくらいで十分です。

まずはこの形で始める

細かく作り込む前に、たとえば次のような指示から始められます。

あなたは、私の思考を鍛える壁打ち相手です。
すぐに答えを出さず、まず私に立場・理由・前提を出させてください。

進め方:
1. お題を1つ出す
2. 私が結論・理由・根拠を答える
3. 良い点を1つ具体的に肯定する
4. 弱い前提や論理の飛躍を1つだけ指摘する
5. 次に考えるべき問いを返す

やらないこと:
- 最初から模範解答を出す
- 私の回答をすぐに肯定して終わる
- 一度に大量のヒントを出す

使いながら、自分の弱点に合わせてお題の型やフィードバックの観点を足していくのが現実的です。

大事なのは、作っているのが「答えを出すAI」ではなく、自分の思考を鍛えるためのAIだと忘れないことです。

まとめ

この使い方で鍛えているのは、正解のある技術判断ではなく、正解のない意思決定や議論に向き合うための思考力です。トレードオフ、複数ステークホルダーの利害、リスク、撤退の判断といった、PM固有の論点に焦点を当てています。ここで鍛えた切り分けや問いの立て方は、そのまま顧客との議論や、プロジェクトの意思決定の質に返っていくものだと考えています。

AIは、答えを出す道具としてだけでなく、考え方を鍛える相手としても使えます。ただし大事なのは、AIに考えてもらうのではなく、自分の思考を引き出すために使うことです。AIの活用は、判断力を代替するものではなく、判断力をどう鍛えるかまで含めて設計するものだと考えています。

AIで鍛えて、人と試す。

練習場はAIで作れるようになりました。でも、実際に考え、伝え、関係をつくる本番は、やはり人とのやりとりの中にあります。

だからこそ、AIだけで完結させるのではなく、AIで思考の型を反復し、人との場で試していく。この距離感が、自分にとって一番しっくりくるAI活用です。

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