クラウドネイティブでPMをしている、ひろき(ロッキー)です。いま、いくつかの案件を同時に持っていて、案件ごとに立場も進み方も違います。
こう書くと「器用貧乏で、どれも中途半端になっていませんか」と思われるかもしれません。正直に言うと、その心配は的外れではありません。掛け持ちは、油断するとすぐに中途半端になります。
ただ、実際に回してみて分かったのは、中途半端になる原因は能力の問題ではない、ということでした。本当のボトルネックは、もっと手前にあります。
ボトルネックになるのは、能力ではなく情報の錯乱
私のいる環境は、情報の透明性が高く、案件の情報は担当でなくても見に行けます。Slackのやり取りも、Notionの議事録も、Boxの資料も、基本的にはオープンに置かれています。これはとてもありがたい前提で、知りたいことがあれば自分でたどれます。
一方で、この透明性は両刃でもあります。アクセスできる情報が多いということは、案件が増えるほど、追うべき情報が大量に散らばるということです。同じ案件の話が、Slackのスレッドにも、Notionのページにも、Boxの資料にも、メールにも分かれて置かれています。掛け持ちだと、それが案件の数だけ並びます。
ここで起きるのが、情報の錯乱です。どの案件が今どこまで進んでいて、次に何を決めるのか。それを全部、頭の中だけで覚えて切り替えようとすると、案件同士が混ざってきます。私自身、案件が立て込んだ時期に、頭の中で話が混ざって、これはどっちの案件だったかと一瞬詰まることがありました。混ざると、判断が鈍り、確認が漏れます。結果として、どの案件も中途半端になります。器用貧乏に見える正体は、たいていこれだと思っています。能力ではなく、散らばった情報を記憶で吸収しようとして、あふれているのです。
いまは、どの案件の話が来ても即日で状況をつかめる
この錯乱を、仕組みで抑えにいきました。結果として今は、急に別の案件の話が振られても、その日のうちに現在地を答えられます。会議が急に入っても、誰かに「あの件どうなってる」と聞かれても、慌てて過去のやり取りをさかのぼることがなくなりました。掛け持ちで一番ありがたいのは、この即日で状況をつかめる状態です。
やっていることは、大きく三つです。案件ごとに状況を1枚に畳む。畳む作業を自作のスキルにしてAIに任せる。そして、作って終わりにせず更新をかけ続ける。全体像は、この一枚のとおりです。
まず、1案件を1枚に畳む
一つめは、案件ごとに状況を1枚にまとめることです。私は案件ごとに Markdownのファイルを一つだけ用意して、その案件のことはそこを見れば分かる、という状態にしています。
載せているのは、だいたい決まった型です。散らばっていた情報を、この型に畳んでいきます。頭の外に出してあるので、別の案件に切り替えても、その1枚を開けばすぐ現在地に戻れます。覚えておかなければ、というプレッシャーが消えると、それだけで錯乱がかなり減ります。
イメージが湧くように、架空の案件でサンプルを一つ作りました。実在の案件ではありません。1枚にはこのくらいの項目が並びます。
サマリから空白域まで、その案件の現在地がこの一枚に収まっています。案件のことを聞かれたら、まずここを開きます。
畳む作業は、自作のスキルにしてAIに任せる
とはいえ、この1枚を手で埋め続けるのは大変です。情報は SlackにもNotionにもBoxにもAsanaにも、メールにも散っています。これを人力で全部追って、毎回まとめ直すのは現実的ではありません。
そこで二つめとして、この「畳む作業」そのものをスキルにしました。Claude Code には、自分用の作業手順を「スキル」として登録しておける仕組みがあります。そこに、キャッチアップ用のコマンドを一つ作りました。やることは、こうです。
- 案件名と呼び方のゆれ(正式名・略称・システム名)、それに自分がその案件でどんな立場で、何のために把握したいのかを渡す
- Slack・Notion・Box・Asana・メール、それに Zoom会議の文字起こしを、ソースごとに手分けして同時に読みにいく(読み取りだけ、書き込みはしない)
- 集めた情報の重複を除き、時系列を一本にそろえ、事実と推測を分けて、決まった型の1枚にまとめる
- できあがった1枚を、その案件のファイルとして保存する
この最初のインプットが、実はいちばん大事だと思っています。同じ案件でも、自分の立場によって、必要な情報の粒度がまるで変わるからです。プリセールスの段階から入っているメインPMなのか、途中からメインを引き継いだのか、サブとして一部を補完する立場なのか。あるいは、担当ではないけれど別の案件に活かすために経験を盗みにきたのか。ここをAIに伝えておくと、拾ってくる情報の深さと範囲が変わります。途中から引き継いだのなら、これまでの経緯と決定事項を厚めに。サブなら、自分の担当まわりを細かく。経験を盗みたいだけなら、要点を広く浅く。立場を曖昧にしたまま走らせると、全部を平らに拾ってきて、かえって読みづらい1枚になります。
新しく案件を持ったら、まずこれを一回走らせて、たたき台の1枚を作ります。ゼロから手で書き起こすのに比べて、立ち上がりがまるで違います。
情報の透明性が武器に変わるのは、ここです。アクセスできる情報が多いほど、横断で拾える材料も増えます。散らばっていて厄介だったものが、まとめる相手がAIになった途端に、材料の豊富さという強みに反転します。
ただし、材料が多いほど、まとめ手が事実と憶測を取り違えたときの怖さも増します。だから、鵜呑みにできる1枚にすることに一番こだわりました。そのために、三つのルールをスキルに持たせています。
- 拾ってきた項目には、どのソースのどの文書から取ったのかと、その日付を必ず添える
- 確実でない部分は「推測」とはっきり分ける
- アクセスできなかった領域や見つからなかった情報は、黙って埋めずに「情報なし」「要確認」と正直に残す
ここを曖昧にすると、それらしいだけの1枚ができてしまい、かえって危ないからです。さっきのサンプルで、キーパーソンに「(出典: Slack …)」が付いていたり、「(推測)」や「要確認」が残っていたりするのは、このルールの表れです。出典と日付が付いていて、分からないところが分からないと書いてあるからこそ、この1枚を判断の土台にできます。
最近とくに効いているのが、Zoom会議の文字起こしです。議事録には、決まったことや宿題は残ります。ただ、誰がどんな温度でそれを言ったのか、どこで言葉に詰まったのか、本音はどこにあるのか、といった手ざわりは、整えられた議事録からは抜け落ちがちです。文字起こしが残るようになって、そこを拾えるようになりました。この人は詰めると身構える、この論点にはあまり乗り気ではない、といった温度感が分かると、次にどう進めるかの判断が変わります。掛け持ちだと、すべての会議にずっと張り付いてはいられません。後から文字起こしをAIに読ませて、生の声と温度感まで1枚に残せるのは、想像以上に効いています。
そして、作って終わりにせず更新をかけ続ける
三つめは、この1枚を作って終わりにしないことです。案件は動きます。一度まとめた1枚も、放っておけばすぐ古くなり、また現状とのズレを埋め直す手間が戻ってきます。
そこで、更新も別のスキルにしました。期間を指定すると、その間に動いたぶんだけを各ソースから拾ってきて、1枚に反映します。中でやっているのは、こういう仕分けです。
- 新しく決まったことは、決定事項に移す
- 片づいた課題は、落とすか「解決済み」と注記する
- 新しく出てきたリスクは、書き足す
- 期日や進捗が変わったところは、時系列を直す
- いつ何が変わったのかを、末尾の「更新履歴」に日付つきで残す
毎回ゼロから作り直すのではなく、変わったところだけを差分で足していくので、更新は軽く済みます。この軽さのおかげで、キャッチアップが一度きりのイベントではなく、更新をかけ続ける状態になります。1枚が、古びずに生き続けるわけです。
仕組みにしてから、変わったこと
急に別案件の話が来ても、その案件の1枚を開けば、決まったことと次にやることがそこにあります。出典が付いているので、必要なら元のスレッドや資料まですぐたどれます。思い出すために過去をさかのぼる時間が、ほとんどいらなくなりました。
情報が錯乱する感覚も薄れました。案件ごとに1枚へ畳んであるので、頭の中で混ざりません。覚えていなければ、という不安がなくなったぶん、目の前の案件に集中できます。サブで入っている案件も、置いていかれにくくなりました。手をかける時間が少ない案件ほど、生きている1枚があることの効き目は大きくなります。
おわりに
振り返ると、これは特別なことをしているわけではありません。情シスにいた頃、複数のシステムや複数のチームを同時に見ていました。あのときも、頭で全部を覚えるのではなく、見れば分かる状態を先に整えてから回していました。やっていることは、そこと地続きです。
情報の透明性が高いのは、前提としてとても強いことだと思います。ただ、その強さを個人が使いこなすには、あふれる情報を1枚に畳み、それを更新し続ける仕組みが要ります。
もう一つ、正直に付け加えておきます。この仕組みが成り立つのは、情報がオープンに置かれているからです。ただ、ここでいうオープンは、何でも野放しという意味ではありません。誰がどこにアクセスできるかというアクセスコントロールが効いていて、その上で必要な情報にたどり着けるようになっています。そういうIT環境を会社が構築しているからこそ、安心して情報をオープンにでき、横断もできます。AIに横断させるときも、動くのは自分がアクセスできる範囲の中だけです。この土台がなければ、同じようには回らなかったと思います。
掛け持ちを気合と記憶で支えようとすると、どこかで中途半端になります。支えてくれるのは自分の頑張りではなく、生きている1枚と、それを保つ仕組み、そしてそれが動くIT環境のほうです。