PMが娘のランドセル選びで学んだこと|隠れた本音の見つけ方と、対立を着地させる合意形成

kenken
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プロジェクトマネージャー

はじめに

こんにちは!新人PMおじさん改め、入社1年ちょっとのkenkenです。

普段はID管理やCIAM領域の導入支援に携わっていますが、今回は仕事の話ではなく、我が家の話です。アラフォー2児の父である私は、この春まで「ラン活」の渦中にいました。ラン活とは、年長児の親が翌春の入学に向けてランドセルを選び、購入する活動のことです。

「なんでラン活の話なんかするんだ?」と思いますよね。情シスやセキュリティのプロジェクトと、ランドセル選び。一見、共通点なんてなさそうに思えます。

でも実は、ラン活って立派なプロジェクトなんです。ステークホルダーの対立あり、要件の裏に隠れた本音あり、ちゃぶ台返しありと、蓋を開けてみれば普段の仕事で向き合っている光景のオンパレードでした。

結論から先にお伝えすると、我が家のラン活は2月末に始まり、購入は5月末。丸3ヶ月かかりました。期間だけなら、ラン活としては珍しくありません。ただ我が家のラン活は、合計4日で4店舗を回り、本命の店には3回通うという頻度でした。同じ店に3回通ったのは、吟味のためではなく、決めきれなかったからです。娘の希望は日毎、店ごとに変わり、娘と妻の意見はずっと噛み合わないまま。ぶっちゃけ泥沼でした。

ただ、この泥沼から得たものは、家族の思い出と、家庭にもプロジェクトがあるという気づきだけではありませんでした。PMとして、とんでもない学びがあったのです。

それは、議論が噛み合わないとき、疑うべきは論点ではなく前提。そして前提の奥には、まだ言語化されていない本音が眠っている、ということです。

この記事では、その顛末をPM目線で振り返ります。

ラン活=プロジェクトであると言えるわけ

考えてみれば、条件は揃っています。現場利用者(娘)がいて、品質保証を主張する関係者(妻)がいて、予算の制約(家計)があり、納期のプレッシャー(人気モデルは早期に完売します)まである。立派な調達プロジェクトです。

私自身、始める前はシンプルなプロジェクトだと思っていました。家族の要望を整理して要件定義ができれば、あとはそれに合ったランドセルを見つけるだけ。実際、そのままスムーズに決まるご家庭もあります。

ただ、実態はちゃぶ台返しのリスクが大量に潜むプロジェクトです(少なくとも我が家ではそうでした)。

なにしろメインの現場利用者は年長の子どもです。一晩寝れば考えが変わります。しかもラン活では、要件を固めてから現物を見るのではなく、現物を見ながら要望を整理していくのが一般的。つまり要件定義と調達が同時に走ります。そしてランドセルの実物には、小学生への憧れを揺さぶり、かたまりかけた気持ちをひっくり返す強い魔力があります。

要求が揺れやすい現場利用者と、気持ちを揺さぶる実物。この二つが揃ったプロジェクトがどうなるか、結果として我が家で何が起きたかを順を追ってお話しします。

何が起きたか:毎回変わる娘の希望と、噛み合わない議論

記念すべきラン活の1日目、初めのお店に行ったときの娘の希望は、好きなプリキュア(キミとアイドルプリキュア♪のキュアキュンキュン)の色である紫でした。それが次のお店では、二つ前のプリキュア(ひろがるスカイ!プリキュアのキュアスカイ)の色である水色になり、さらにその次のお店では、何の背景もない、ただ店頭で見て背負って一目惚れした黄色になりました。選択肢を先に見せ続けた結果、要求は収束するどころか発散していきました。

そしてこの黄色こそが、妻と娘の対立の発端でした。なぜか妻は、黄色に対して強い反対の意志を示しました。それ以降、背景は不明なものの、妻は一貫して「6年間使うんだから、今可愛いかどうかじゃなくて、高学年になっても持てるかどうかで選ばないと」と言い続けます。娘はそれに負けじと、あくまで「今」可愛いものを欲しがる。ちなみにその「今」は、2日目には「水色がいい」に変わっている始末です。結果として、二人の話は平行線でした。

平行線になるのも当然です。娘は「今可愛い」を前提に選び、妻は「6年間使う」を前提に選ばせようとしている。前提が違うので、どの色がいいかをいくら話しても噛み合わないんです。会議で見たことのある光景でした。

転機:「6年間使うんだから」の正体

あるとき、妻の発言にひとつのパターンがあることに気づきました。妻は娘に対して、具体的な色を指して「これがいい」とは言いません。ところが大人同士の会話や店頭での試着では、妻から度々キャメル(茶色)が候補として挙がる。「6年間使うんだから」という主張に対して、不自然なほどキャメルだけが出てくる。ここに違和感を感じました。

あらためて妻に話を聞いてみると、やはり出てきました。「本当はキャメルを背負ってほしい。背負っている娘が可愛い」。6年間で変わっていく娘に対応できるかどうかではなく、どこまでも主観ベースの気持ちです。「6年間使うんだから」という一見客観的な選定基準は、この本音の隠れ蓑だったわけです。

これ、仕事でもよくある構図じゃないでしょうか。表明された要件と、その裏にある本当の要求のズレ。「セキュリティ要件だから」と言いながら、実は使い慣れたツールを手放したくないだけ。「コストが」と言いながら、実は別の付き合いを優先したいだけ。

要件表の言葉をいくら精査しても選定が決着しないのは、書いた人の動機を見ていないからです。

そして大事なポイントは、「6年間使えるかどうか」をいくら議論しても、この対立は解決しなかったということです。対立していたのは要件ではなく、まだ表明されていない要求同士だったのですから。

打ち手:合意形成に使った5つの手

本音が見えたところで、ここからがPMムーブです。振り返ると、5つの手を使っていました。どれも新しい発明ではなく、仕事で学んだスキルをそのまま家庭に持ち込んだものです。

1. 第三者を入れる→客観的な意見を取り入れる

これは膠着した場全体、なかでも妻に向けた手です。私の母に同行してもらいました。娘にとっては祖母、妻にとっては義母です。

当事者ほど利害が濃くない第三者がいるだけで、膠着した交渉の空気は変わります。そして今回特に効果的だったのは、妻が義母の意見を、当事者である私や娘の意見とは違って、完全に客観的な意見として聞けたことです。客観的な意見を、客観的なものとして受け取ってもらうための場づくりにもなりました。

もうひとつ、建前だった「6年間使って似合うかどうか」という一般論を、第三者の口から妻にインプットしてもらえたことが、結果として思わぬ効果を生みました。一般論に対して客観視できるようになることで、キャメル以外にも6年後でも似合う色はあるということに、義母の言葉を通じて気づいてくれたようでした。

2. 近しい事例を集める→説得ではなく実例で伝える

ここからは娘に向けた手です。娘と仲の良い、私の友人の子ども(中学生)に「ランドセル選びはどうだった?」と聞きました。返ってきたのは、「本当に欲しかったのはピンクだったけど、親にやめるように言われたから赤にした。結果として6年の時には似合わなかったと思うから、親の言うことを聞いてよかったと思う」という実体験。これをそのまま娘に伝えました。

親、いわば売り込む側の説得より、信頼している先輩の実例のほうがはるかに響くんですよね。仕事でいう導入事例の共有です。実際この話のあと、娘は母である妻の言うことを拒絶するのではなく、話を聞いてみようかな、という姿勢になっていくように見えました。

3. 期待値調整をする→心変わりを織り込んで考えさせる

これも娘に向けた手です。「そんなに好みが変わるなら、今いちばん良いと思うものを買っても、すぐに好みが変わって嫌になっちゃうよね」と話しました。

根拠にしたのは、紫→水色→黄色と毎回好みが変わってきたという本人の事実です。責めるためではなく、「今の好き」がずっと続くとは限らないこと、例えばプリキュアは1年で別のものになるし、6年生になってもプリキュアが好きかはわからないということを、本人の実体験を元に想像してもらう。期待値調整を交渉の前面に押し出した形です。

4. 問題を再設定する→課題の解像度を上げて、本人に持たせる

最大のポイントはここでした。これも娘に向けた手で、なかでも娘自身の課題設定への対応です。

「1色を選ぶ」という問題を、「メインの色」と「アクセントの色」に細分化して再設定しました。そのうえで、「この組み合わせだったら今も満足できるし、6年生になっても可愛いよね?」と問いかける。6年生になったときにどう思うかは、本人にもまだわかりません。わからないなりに、未来の自分がどう思うかを考える。その課題を娘自身に持たせました。

くすみ系の可愛い色をメインに、シックな大人色をアクセントに、という折衷案の方向性は、ここから生まれています。そしてこの再設定は、打ち手1で妻が気づき始めていた「キャメル以外にも6年後でも似合う色はある」という感覚とも、うまく噛み合っていきました。

5. 折衷案を、娘の口から言わせる→合意にオーナーシップを持たせる

最後は妻に向けた手です。この折衷案は、私から妻に提案するのではなく、話し合いを重ねて娘自身から妻に話させる形にしました。合意は「内容」と同じくらい「誰の口から出たか」で定着度が変わります。オーナーシップが利用者本人にある合意は、あとから崩れにくいんです。

最終的に、娘の意見はよく考えて決めたものであって、刹那的なものではないことを妻が理解したことで、お互いに意志を尊重する話し合いができるようになってきました。

決着:メインはピンクベージュ、フチはキャメル

結果として、メインの色はピンクベージュ、フチのアクセントはキャメルに決まりました。

娘は「今可愛い」を満たすくすみ系の色を手に入れました。そして妻の本音だったキャメルは、却下されたのではなく、フチの色として部分的に実現されました。この着地が決め手だったのだと思います。

長い交渉に疲れたのもあるかもしれませんが、妻もある程度納得したようで、無事注文に進んで我が家のラン活は大団円を迎えました。

白状します:私も妻と同じことをしようとしていました

ここまで、ステークホルダーが意見を対立させている泥沼な状況に対して、PMとしてフラットに対応した話として書いてきました。しかし白状しなければならないことがあります。

私自身もまた、選定の過程で、パーツの一部がプラスチックでできているメーカーの製品を、候補から外したいと考えていました。理由は単純で、私の好みではなかったからです。自分の好みを子どもの買い物に汲ませようとしていた立ち位置は、キャメルを使ってほしかった妻とまったく同じです。

そして結果から言うと、ステークホルダーの立ち位置ながらPMムーブを活用することで、この意見を採用してもらうことに成功しました

まず娘に率直に「プラスチックのパーツはどう思う?」と聞きました。返ってきたのは「特にどっちでもいい」。つまり、そこに娘の要求はない。要求の空白を確認したうえで、「傷がついたら目立つよ」「金属のほうがかっこいいし丈夫だよ」と、自分の推しの根拠を伝える。私自身は金属のほうが好きだということも正直に伝えたうえで、納得してもらいました。

もし娘が本気で反対していたら、どうしていたでしょうか。妻が「6年間使うんだから」でやったのと同じように、自分の好みを隠せるもっともらしい基準を、後付けで探し出していた可能性を、正直、否定できません。

立ち位置は妻と同じ。妻との違いは、隠さず表でやったことくらい。要件の裏の本音を暴く話は、最後に自分へのブーメランになりました。

明日どう動くか:会議で要件が噛み合わないときのチェック観点

ラン活から持ち帰った観点を、仕事用に翻訳しておきます。

  • その要件は、誰の口から、誰に向けて語られているか。 特定の相手にだけ言わない要件は、隠れた本音のサインかもしれません
  • 議論が堂々巡りするとき、対立しているのは要件か、それとも未表明の要求か。 後者なら、要件をいくら精査しても決着しません
  • 要求の空白を、誰の好みが埋めているか。 ファシリテーター自身の推しが紛れ込んでいないか、自分にも問いたいところです
  • その本音、隠すのではなく率直に伝えてもいいのではないか。 本音をそのまま表に出すことで議論が発展し、結果として本音そのものにとっても良い着地につながることもあります
  • 折衷は「配分」ではなく「問題の再設定」で探れないか。 どちらが勝つかの問題設定を、細分化して両方をどこに置くかに変換できないか

おわりに:PM1年目、思わぬ腕試し

IT営業からPMに転身して1年ちょっと。正直、プロジェクトというものは仕事の中だけにあると思っていました。今回のラン活で初めて、家庭を含む仕事以外でもプロジェクトがあることに気づいたのです。

そしてこのプロジェクトは、図らずもPM1年目の腕試しになりました。ちゃぶ台返しと隠れた本音に丸3ヶ月振り回されはしましたが、仕事で学んだ手を家庭に持ち込んで、対立を着地させることができた。娘は気に入ったランドセルを手に入れ、妻の希望もフチの色として残った。こそっと自分の要望も組み込むことができた。プロジェクトとしては、まずまずの成功だったと思うことにしています。

そして何より、PMとして1年やってきたことは無駄じゃなかったんだなと、少し自信がつきました。

数年後には息子のラン活も控えています。今度は、ちゃぶ台返しが起きることを最初から織り込んだうえで、挑みたいと思います!

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