チームがうまく回らないのは自分のせいかもしれない|トヨタの「自工程完結」「後工程はお客様」で考えてみる

IDチームの前田です。最近Elgato Wave Mic Arm LPというマイクアームを購入し、低めのマイクアームなので視界の邪魔にならずRazer Seiren V3 Miniと組み合わせて音声入力がさらに捗るようになりました。

さて今回は製造業の言葉である「自工程完結」を、普段の仕事に置き換えてみたという話です。

これは筆者がPdM、Frontend、Backend、SRE、QAといったメンバーとプロダクト開発をしていた時に、手戻りや品質劣化に遭遇していたときに当時の上司に教えてもらい以来、全ての仕事で適用して実践している概念です。

3行まとめ

自工程完結とは

自工程完結は、トヨタで使われている品質の考え方です。

品質は最後の検査で確保するものではなく、それぞれの工程で造り込むもの、という前提に立ちます。

自分の工程で良品だけを作り、不良を次の工程に流さない。これが自工程完結です。

もともとは製造ラインの言葉でした。ただ、トヨタは2007年頃からこの考え方を事務部門や技術部門にも広げています。

つまり、資料を作る仕事や設計を検討する仕事にも、そのまま使える枠組みだということです。

前工程・自工程・後工程

自工程完結を普段の仕事に持ち込むために、まず登場人物を整理します。

  • 前工程:自分に仕事を渡してくる人。依頼元、資料の提供元、前段の担当者
  • 自工程:自分が担当している範囲
  • 後工程:自分の成果物を受け取る人。次の担当者、レビュアー、承認者、そして最終的にはお客様
前工程・自工程・後工程
前工程・自工程・後工程

工場のラインだと、この並びは目に見えます。オフィスの仕事では見えにくいだけで、構造は同じです。

仕様書を書く人がいて、それを見て実装する人がいて、その結果を検証する人がいる。問い合わせを受ける人がいて、調査する人がいて、回答する人がいます。

そしてトヨタには「後工程はお客様」という言い方があります。

自分の成果物を受け取る次の担当者を、社内の人ではなくお客様として扱いましょう、という意味です。社内の相手なら、多少の不備は口頭で補ってもらえます。補ってもらえると思っているので、多少なら流していい気になります。

でも、補うのは自分ではありません。

自工程が甘いと後工程で起きること

たとえば、こんな渡し方をしたとします。

  • 数字の根拠を書かずに資料を渡す
  • 判断がつかなかった項目を、空欄のまま次に回す
  • 前提条件を書かずに依頼を出す

どれも、渡した時点で自分の作業は終わっています。ただ、受け取った側はそのままでは進めません。根拠を探すところから始めたり、「これはどうしますか」と聞き返したり、前提を推測して作ってみて外れたら作り直したりすることになります。

書かなかった根拠も、決めなかった判断も、消えてなくなったわけではありません。誰かがやることになっただけです。

つまり仕事は減っていなくて、移動しただけということになります。

自工程の不備が後工程の手戻りになる
自工程の不備が後工程の手戻りになる

やっかいなのは、下流に行くほど直すコストが上がることです。

仕様の段階なら一行の修正で済んだ食い違いが、実装まで進むとコードの修正になり、リリース後だとお客様への説明と修正版の配布まで必要になります。

自工程で30分惜しんだ結果、後工程で数日が溶ける。しかも、この負担はなかなか表に出てきません。

後工程の担当者は、たいてい黙って埋めてくれるからです。自分の仕事が誰かの残業に変わっていることに、自工程の側は気付けません。

気付かないので、次も同じ渡し方をします。

良品条件を先に決める

では、時間をかけて完璧に作り込めばいいのかというと、そういう話でもありません。

自工程完結が求めているのは、丁寧さや根性ではないからです。

自工程完結でやるのは、着手する前に「良品条件」を決めておくことです。良品条件とは、良い結果を出すために何がそろっている必要があるか、ということです。

筆者は、仕事に取りかかる前に次の4点を確認するようにしています。

  1. この仕事の後工程は誰か
  2. 後工程が受け取ったとき、そのまま次に進められる状態とは何か
  3. そのために、どんな情報と判断基準が必要か
  4. その情報のうち、いま手元にないものは何か

1番は、意外と即答できません。依頼してきた人と、実際に成果物を使う人が別、というのがよくあるからです。

4番は、そのまま前工程への確認事項になります。着手前に洗い出しておくと、作りながら気付くより手戻りが小さくて済みます。

できあがってから点検する方式だと、この順番が逆になります。点検で見つかるのは、すでに作り込んでしまった不備だけです。

先に良品条件を決めておけば、そもそも不備の入る余地が減ります。

前工程へのフィードバック

自工程完結には、もう一つの方向があります。

不良を後工程に流さないだけでなく、前工程から流れてきた不良を受け取らない、という方向です。

前工程から不完全なものが流れてきたとき、一番やりがちなのが黙って埋めることです。自分で調べれば分かるし、聞くより早い。

ただ、こちらで埋めてしまうと、前工程は自分が不備を出したことに気付けません。気付けないので、次も同じものが流れてきます。

そして今度は別の誰かが黙って埋めます。

なので、受け取った時点で前工程に戻します。

  • 「この項目は判断がついていないので、決めてから回してもらえますか」
  • 「この数字は根拠がないと後工程で説明できないので、出典を追記してください」

ここで指摘して終わりにしないのがポイントです。

次から同じ確認が要らなくなるように、前工程の良品条件として共有します。

「毎回この3点が入っていれば、こちらで止まらずに進められます」と伝えておくと、次からは最初から入ってきます。

不良は下流に流さず、前工程に戻す
不良は下流に流さず、前工程に戻す

そして当然ながら、筆者も後工程からフィードバックを受ける側です。

質問や差し戻しが来たということは、自工程の良品条件が足りていなかったということになります。言われたその場で直して終わりにせず、自分のチェックリストに足していくようにしています。

品質を造り込むのは自工程ですが、良品条件を育てるのは工程間のやりとりです。

所感

  • 「自分の作業が終わったか」ではなく「後工程がそのまま進められるか」で完了を判断すると、資料や依頼文の詰め方が変わります
  • 自分の仕事で省いた30分は消えるのではなく、後工程の数時間・数日に変わっているだけです
  • 良品条件は着手前に決めるのがポイントで、できあがってからのチェックでは遅いです
  • 前工程の不備を黙って埋めるのは親切に見えて、前工程から改善の機会を奪っています。戻してフィードバックするところまでが自工程の仕事です

自分の後工程が誰なのか、その人が何を受け取れば手が止まらずに済むのか。

次に仕事を渡すときは、一度だけ考えて、後工程はお客様の気持ちで自工程を完結させていきましょう

参考

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