先月は来ていた請求書が、今月は来ていない。経理が「無いこと」に気づく4つの習慣

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Shota Nakano

経理担当

経理担当のShotaです。

毎月来るはずの請求書が、今月だけ届いていない。売上は立っているのに、対応する仕入の請求書が見当たらない。経理の仕事には、こういう「来ていないもの」に気づけるかどうかで精度が決まる場面があります。

来た請求書は机の上にあるので処理できます。ところが来なかった請求書は、どこにも現れません。探そうにも、探す対象として浮かんでこないのです。

この厄介さを、私はいちばん分かりやすい形で突きつけられたことがあります。相手はAIでした。

頼まれごとを取りこぼさないようにチャットツールとメールをAIに毎晩読ませて、期日のある依頼だと判断したものをタスクとして起票させています。以前は毎朝15分ほどかけて、メールとチャットを一件ずつ確認していました。今は起票されたタスクのタイトルに目を通し、気になるものだけ中身を開けば済みます。

ある朝、その報告が「正常に完了しました。起票したタスクは0件」でした。前日に期日のある依頼が1つもなかった日なのか、それとも依頼はあったのに拾えなかった日なのか。この2つは報告の文面からは区別がつきません。

この記事の3行まとめ

  • 「無い」ことは自分から知らせに来ない。だから確認の対象にすら上がらない
  • 見分ける手がかりは「前はどうだったか」との比較だけ。ゼロを判断するには、ゼロでなかった日の記録が要る
  • 記録が無いものは、比較そのものが成立しない。だから聞いた時点で書き留めておく

ある朝の報告は「正常終了、0件」でした

ここでの0件は、その晩に起票されたタスクの件数です。前日1日分のチャットとメールを読んで、期日のある依頼だと判断できるものが1つもなかった、という報告でした。

私は報告を見て「昨日は静かな日だったんだな」と思っただけで、そのまま流しました。

引っかかったのは数日後です。前の週のやり取りを別の用事で見返していて、期日のある依頼がいくつも流れていたことに気づきました。0件の報告があった日は静かな日ではなかったのです。本来なら何件かは起票されていたはずの日でした。

調べてみると、人が立ち会って試す時には問題なく動くのに、夜間に無人で走らせた時だけ前提が満たされず、中身が空振りしていました。原因は実行する環境の違いです。技術的な話になるのでここでは深追いしませんが、直すこと自体は難しくありませんでした。

問題は直し方ではなく気づき方のほうでした。空振りしても、処理はエラーで止まりません。最後まで進んで、正常終了として報告されます。変わるのは、起票される件数がゼロになることだけです。壊れたのに、壊れたと言ってこない。これが厄介でした。

「無い」は、自分から知らせに来ません

間違いはたいてい知らせに来てくれます。エラーが出れば画面に出ますし、金額を間違えれば突合で引っかかります。数字が合わなければ、合わないという形で目の前に現れます。

ところが「無い」は何も言ってきません。冒頭に書いた届かない請求書も、起票されなかったタスクも同じです。人は、目の前にあるものの正しさは疑えますが、そこにないものには気づけません。確認しようにも、確認の対象にすら上がってこないからです。

そして経理の仕事は、この「無いこと」に囲まれています。これは自動化をしているかどうかとは関係のない話です。あとで具体的に並べますが、まずは「ゼロをどう読むか」を整理していきます。

正常なゼロと、異常なゼロを分ける

ゼロには2種類あります。本当に何もなかったゼロと、仕組みが働かなかったゼロです。この2つは見た目がまったく同じです。どちらも画面には何も出ません。

では何で見分けるのかというと、手がかりは1つしかありません。前はどうだったかです。

先週まで毎日いくつか起票されていたのに、今日だけがゼロでした。この「いつもと違う」だけが、疑うきっかけになります。逆に言えば、いつもどうだったかを知らなければ、今日のゼロが正常なのか異常なのかは永遠に分かりません。

ここが肝心なところです。ゼロを判断するために必要なのは、ゼロだった日の記録ではなく、ゼロでなかった日の記録です。過去に何件あったかを持っていない限り、ゼロは判断できないのです。

決めた4つの習慣

ゼロが正常なのか異常なのかは、過去の記録と比べない限り分かりません。逆に言えば、比べられる形さえ手元にあれば気づけるということです。

この考え方をもとに、4つ決めました。どれもAIに任せているかどうかに関係なく使えます。自動で走らせているなら仕組みに任せられますし、手作業の月次でも同じことができます。

  1. ゼロの日ほど、自分の目で元を見る。件数が出た日は自然と目に入りますが、何も出てこない日は、いちばん確認されない日になります。「該当なし」で終わった日こそ、元のデータを一度だけ自分で見ます。AIに任せているなら「0件の日も知らせて」と設定できますし、手作業なら該当なしで閉じる前に一度戻るだけです。順番が逆に感じるかもしれませんが、これがいちばん効きました。
  2. 「やった」の記録を、報告とは別に残す。0件という報告だけでは、やった結果が0件だったのか、そもそもやっていないのかが分かりません。作業した日付さえ残っていれば、この2つはすぐに切り分けられます。経理でいえば、残高が動いていない時に「本当に取引がなかった」のか「記帳していないだけ」なのかを、自分の作業記録から確かめるのと同じです。自動で走らせているなら仕組みの側に記録させ、手作業ならチェックリストに日付を入れる。残すのは着手した時刻ではなく最後まで終わった時刻にしておくと、途中で止まった日も見分けられます。
  3. 前週・前月と比べて、急に減った時は疑う。疑う対象はゼロだけではありません。「いつもの半分」も同じくらい怪しいです。全部止まるより一部だけ止まるほうが、報告は正常に見えてしまうぶん、見つけにくくなります。
  4. 「前回できた」を、今回も大丈夫の証拠にしない。人が見ている前で動いた仕組みが、人がいない時にも動くとは限りません。今回動かなくなったのは、まさにその差のところでした。これは仕組みに限った話ではありません。前回きちんと届いた請求書が今月も届くとは限りませんし、去年通った手順が今年も通るとは限りません。一度うまくいったことを、次もうまくいく根拠にしないということです。

経理の「無いこと」にも、同じ4つが効きます

ここからが、この記事でいちばん伝えたいところです。この4つは、AIに任せている処理だけの話ではありません。経理の仕事には、同じ構造の「無いこと」がいくつもあります。

  • 毎月来るはずの販管費の請求書が今月届いていない。家賃、通信費、外注費、サービスの利用料。来た請求書は処理しますが、来なかった請求書は手元に現れません。
  • 毎月やっているはずの業務の依頼が今月は来ていない。たとえば月次で回ってくる資料の提出依頼や、他部署から届く集計の依頼です。お金の出入りに直結する業務なら、来なければすぐ気づきます。ただ、現金が動かない業務は、そもそも意識から外れやすく、依頼が来ていないこと自体に気づけません。
  • 売上は計上されているのに対応する仕入の請求書が届いていない。売れたのに仕入れた分の請求だけが来ていない状態です。案件の数が多い月ほど、どれが欠けているのかを追いにくくなります。
  • 補助科目の残高が当月まったく動いていない。動きがないことが正常な月もあれば、計上が漏れている月もあります。

金額の影響がいちばん大きいのは3つ目です。売上だけが先に立っている状態では、その月の利益は実態より良く見えます。あとから仕入の請求書が届いた分だけ、利益は削られていきます。来ていないことに気づけるかどうかが、月次の数字の精度をそのまま決めます

ただ、見つけにくさでいえば1つ目の販管費のほうが上です。仕入なら、売上という相手がいます。売上の側から「これに対する仕入はどこ?」と逆向きにたどれば、欠けている案件が浮かびます。手がかりが残っているぶん、まだ拾えます。ところが販管費には、紐づく相手がいません。逆引きの起点そのものが無いので、頼れるのは「先月は来ていた」という記録だけです。比較しか手がかりがないという意味では、この記事のテーマがいちばん濃く出る例だと思っています。

ここまでの4つは、いずれも過去の記録があります。先月は届いていた、去年の同じ月は動いていた。だから比べれば見つけられます。習慣の3つ目がそのまま使えます。

比べる相手がいない「無いこと」もあります

ただ、比較が効かない種類のものもあります。

これは以前勤めていた会社での話ですが、別部署から口頭で「こういう見積が来ています」と共有されることがありました。金額は分かっているものの、支払日は未定です。そのまま日が経ち、請求書が回ってきたのは支払期限の直前になってからでした。支払のサイクルに間に合わせるために、そこから慌てて動くことになります。ちなみに今の会社では、今のところこうしたことは起きていません。

この差は、コミュニケーションの形から来ています。前職は口頭でのやり取りが中心で、話した内容はその場限りでした。今の会社はテキストが中心なので、共有された時点で記録が残ります(この違いについては出勤とリモートの分け方でも触れました)。ただ、残っているのは共有の仕方が変わったからで、口頭のまま伝えられた予定は、今でもどこにも残りません

この例が厄介なのは、比べる相手がいないことです。前月と比べようにも、その予定はどこにも記録されていません。頭の中と、口頭で聞いた記憶にしかありません。記録がなければ、比較のしようがありません。

防ぎきれないものと、その埋め方

比較が効かないのは、いま見た口頭の予定だけではありません。今まで一度もなかったことも同じです。初めて起きることには、比べる相手がそもそも存在しません。ここは仕組みでは拾えないところとして、確かに残ります。

その代わりに、1つだけ現実的な答えがあると思っています。口頭で聞いた時点で、金額も時期も未定のまま、予定として書き留めておくことです。

「未定」と書いてあること自体に価値があります。書き留めた瞬間に、それは記録になります。記録になれば、翌月からは比較の対象にできます。「あの未定の件、そういえばどうなった?」と自分に問い直せる形が手元に残るわけです。曖昧な情報を、曖昧なまま置いておくのではなく、曖昧なまま記録しておく。この差は大きいと感じています。

もう1つ、書き留めることには副産物があります。記録にしておけば、AIにも渡せるということです。

口頭のままの予定はAIには届きませんが、メモに落とした時点でAIが読める形になります。そうなると、翌月にその予定がまだ来ていないことを、AIの側からも指摘できるようになります。人が書き留めるひと手間が、そのままAIの目を1つ増やすわけです。異常に気づける確率は、記録が増えるほど上がっていきます。

読み取りや洗い出しはAIに任せられますが、口頭で聞いた話を書き留めるかどうかは人の側にしか置けません。この線引きについては、以前読み取りはAIに、確定は人にという記事でも書きました。

明日からの一歩

全部を一度に始める必要はありません。1つだけ選ぶなら、「0件でした」と返ってくるものを1つ決めて、ゼロの日にも知らせが来るようにすることをおすすめします。

自動で走る処理でも、毎月の定型作業でも構いません。「該当なし」で終わったことを、自分の目に一度通します。それだけで、静かに止まっていたものが見つかるようになります。

もう1つ足せるなら、口頭で聞いた支払や入金の予定を、その場で書き留める習慣です。金額も時期も未定でかまいません。未定と書いておけば、来月の自分が拾い直してくれます。

まとめ

「0件でした」という報告は、それ自体では何も証明してくれません。本当に何もなかった日と、仕組みが働かなかった日が、同じ顔をして並んでいるからです。

だから私は、ゼロの日ほど自分の目で元を見ること、やった記録を報告とは別に残しておくこと、前と比べて急に減った時は疑うこと、前回できたことを今回も大丈夫の根拠にしないこと。この4つを重視しています。そして、この4つでも届かない「比較の効かないもの」については、口頭で聞いた時点で記録に落としておくようにしています。

以前、計上漏れも二重計上も原因は同じという記事で、経理のミスは入口をそろえると防げると書きました。今回の話は、その手前にある「そもそも入口を通ってこなかったもの」をどう見つけるか、という話だったのだと思います。

なお、この仕組みにはもう1つ別の失敗もありました。処理はきちんと動いていたのに、拾うべき依頼を「対象外」と判断して取りこぼしていた、というものです。原因も対策もまったく違う話になるので、そちらは次の記事で書きます。

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