AIを使うのが上手い人は、プロンプトではなく進め方を設計している

okash1n
okash1n

執行役員 / 情報セキュリティ管理者

どうも おかしん です。

AIを使うのが得意な人、上手い人とは何でしょうか。

私は、単にプロンプトの言い回しをたくさん知っている人ではないと思っています。

もちろん、指示の書き方は大事です。曖昧な依頼より、目的や条件が整理された依頼の方が、AIの出力は安定します。ただ、最近いろいろな場面でAIを使っていて感じるのは、差が出るのはプロンプトの文面だけではない、ということです。

この記事では、私が最近感じている「AIを使うのが上手い」とはどういうことなのかを、いくつかの例から紐解いていきます。

AIに任せると、それっぽい成果物はすぐ出る

AIに「企画書を作って」「研修資料を作って」と頼むと、それっぽいものはすぐに出てきます。

背景、目的、課題、施策、スケジュール、まとめ。そういう見出しはきれいに並びます。文章も破綻していないし、ぱっと見では仕事が進んだように見えます。

ただ、実務で困るのは、形が整っていることと、読み手が判断できることが同じではない点です。

企画書なら、誰に何を決めてもらう資料なのか。反対されるとしたら、どこなのか。現場にとって何が負担になるのか。セキュリティ研修なら、受講者に明日から何を変えてほしいのか。最近のヒヤリハットとつながっているのか。どの行動をやめて、どの行動を増やしてほしいのか。

こういう部分が抜けたままでも、AIはそれっぽい成果物を作れます。

だからこそ、人間側が「まず何から考えるべきか」を示せるかどうかで、成果物の質が大きく変わるのだと思っています。

例1: 社内向けAI活用ルールの企画書

たとえば、社内向けのAI活用ルールを作る場面を考えます。

悪いというより、もったいない依頼はこうです。

社内向けにAI活用ルールの企画書を作って。

この依頼でも、AIはたぶん企画書を作ってくれます。

出てきやすい内容抜けやすい内容
背景、目的、利用ルール、禁止事項、運用体制誰に何を決めてもらう資料か
機密情報や個人情報を入れない、という一般的な注意全面禁止にするのか、条件付き利用にするのか
利用申請や相談窓口の案現場がどこで困るか
今後の進め方反対されそうな論点と合意すべき前提

もちろん、これはこれで出発点にはなります。ただ、企画書としては少し弱い。なぜなら、読み手が判断するための材料がそろっていないからです。

ここで人間が方向性を示すなら、全部の前提を自力で書き切る必要はありません。

むしろ、AIに質問してもらえばよいのです。

まだ企画書本文は作らないでください。

まず、以下を整理してください。

- この資料を読む人
- この資料で決めたいこと
- 反対されそうな論点
- 先に合意すべき前提
- 現場が困りそうな点

これらを決めるにあたって、あなたから私に質問して疑問点を解消してから企画書の構成を考えてください。

この依頼にすると、AIの作業モードが変わります。

いきなり本文を書くのではなく、足りない前提をAI側から聞きに来る流れになります。

作らせる前に質問させる流れ。整理したい項目を置き、AIから質問し、疑問点を解消してから構成案を作る。
作らせる前に質問させる流れ。整理したい項目を置き、AIから質問し、疑問点を解消してから構成案を作る。

たとえば、AIからは次のような質問が返ってくるかもしれません。

AIに聞いてほしい質問なぜ効くのか
この資料は誰に承認してもらう想定ですか経営向け、管理部門向け、現場向けで必要な論点が変わる
AI利用を許可したい業務と、避けたい業務はありますか全面禁止か条件付き利用かを決めやすくなる
扱ってよいデータ、扱ってはいけないデータの線引きはありますか機密情報や個人情報の扱いを具体化できる
現場から出そうな不満や不安は何ですかルールが形だけになるのを防げる
まず合意したいのは方針ですか、運用手順ですか企画書のゴールを絞れる

こうした質問に答えてから構成案を作ると、「機密情報を入れない」だけで終わらず、どの用途なら使ってよいのか、どのデータは扱ってよいのか、契約やログの確認は誰が見るのか、といった論点に進みやすくなります。

AI活用ルールは、単に禁止事項を並べればよいものではありません。以前、AIに個人情報を入れてはいけない、で思考停止していないか でも書いたように、用途、データ、契約、リスク、得られる効果を分けて考える必要があります。

AIにいきなり企画書を書かせると、一般論としてのルールは出ます。先にAIへ質問させると、合意形成のための企画書に近づきます。

この差は、プロンプトの言い回しというより、作業順序と情報の引き出し方の差です。

例2: 全社向けセキュリティ研修資料

もうひとつ、全社向けのセキュリティ研修資料を考えます。

よくある依頼はこうです。

全社向けのセキュリティ研修資料を作って。

これもAIは作れます。

パスワードを強くしましょう。フィッシングメールに注意しましょう。不審な添付ファイルを開かないようにしましょう。情報漏えいに気をつけましょう。端末をロックしましょう。

どれも間違ってはいません。むしろ正しいです。

でも、正しい一般論は、研修資料として強いとは限りません。受講者から見ると、「知っている話をもう一度聞いた」で終わってしまうことがあるからです。

ここでも、本文を作らせる前に、AIへ質問させる形に切り替えます。

まだ研修資料は作らないでください。

まず、以下を整理してください。

- 受講者は誰か
- 最近起きたヒヤリハットは何か
- 研修後に変えてほしい行動は何か
- 今回あえて扱わないテーマは何か
- 最後に確認したい理解度は何か

これらを決めるにあたって、あなたから私に質問して疑問点を解消してから研修資料の構成を考えてください。

この依頼にすると、AIは「セキュリティの網羅的な説明」ではなく、「この組織の受講者に何を変えてほしいか」を聞きに来ます。

たとえば、最近フィッシング報告が遅れたことが課題なら、研修の中心は「フィッシングとは何か」ではなく、「迷ったときに何分以内に、どこへ、何を添えて報告するか」になります。

パスワード再利用が課題なら、「強いパスワードとは何か」よりも、「パスワードマネージャーを使う、MFAを有効にする、使い回しをやめる」という行動に寄せた方がよいかもしれません。

AIに任せると、正しい説明は出ます。先にAIへ質問させると、行動が変わる研修に近づきます。

人間がやるのは、答えを書くことではなく作業構造を置くこと

ここで言いたいのは、人間が全部考えて、AIには清書だけさせましょう、という話ではありません。

むしろ逆です。AIの実行力を引き出すために、人間が先に作業構造を置く必要がある、という話です。

私が考える「人間が示すべき方向性」は、だいたい次のようなものです。

人間が先に示すことなぜ効くのか
いきなり本文を作らないことそれっぽい一般論に流れるのを防げる
足りない前提を質問させることこちらが最初から全部整理できていなくても、必要な情報を引き出せる
誰に向けた成果物かを確認させること読み手に合わせて内容の深さや言葉を変えられる
何を決めたい、または変えたいのかを確認させること説明資料ではなく判断・行動のための資料になる
何を扱わないかを確認させること網羅しすぎて焦点がぼやけるのを防げる

AIは、こちらが明示しない前提もある程度推測してくれます。そこが便利なところです。ただし、その推測が実務の文脈と合っているとは限りません。

特に、企画書、研修資料、社内ルール、提案資料のように、読み手の判断や行動が重要な成果物では、いきなり本文を作らせるより、先に「何を確認すべきか」をAIに質問させた方がよい場面が多いと感じます。

研究から見ても、計画、分解、外部フィードバックは重要

この感覚は、研究の方向性とも大きくは外れていないと思っています。

たとえば、Plan-and-Solve Prompting は、問題を解く前に計画を作ることで、推論ステップの抜け落ちや計算ミスなどを減らそうとするアプローチです。

Least-to-Most Prompting は、複雑な問題を小さなサブ問題に分け、順に解いていくことで複雑な推論を扱いやすくする考え方です。

Tree of Thoughts は、ひとつの流れで出力して終わりにするのではなく、複数の思考経路を探索し、評価しながら進めることで問題解決能力を高める方法を示しています。

一方で、Large Language Models Cannot Self-Correct Reasoning Yet は、外部フィードバックなしにLLM自身へ自己修正させても、必ずしも性能が上がらず、下がる場合もあることを報告しています。

また、AI Chains では、LLMへの処理を複数のステップに分けてつなぐことで、品質、透明性、制御性、協働感が改善したと報告されています。

もちろん、これらの研究は「AIを使うのが上手い人とは何か」を直接証明するものではありません。ここで言えるのは、LLMの成果は、計画、分解、探索、外部フィードバック、処理の組み立て方に大きく影響される、ということです。

だから、「AIが自身の得意な進め方を分かっていない」と雑に言い切るよりは、こう捉えた方がよさそうです。

LLMは局所的にもっともらしい次の出力を作るのが得意です。一方で、成果物全体の目的、依存関係、評価基準、手戻りの少ない作業順序を、常に自ら最適化できるとは限りません。

そこを人間が補うと、AIの出力は変わります。

AIを使うのが上手い人は、AIの実行力を引き出す人

AI活用が上手い人は、AIに魔法の言葉を投げている人ではないのだと思います。

AIがいきなり本文を書き始めてよい場面なのか。先に読み手や目的を整理すべき場面なのか。複数案を出して比較すべきなのか。反対論を先に洗い出すべきなのか。評価基準を置いてから作るべきなのか。

そういう進め方を、人間側で選べる人です。

プロンプトのうまさは、その一部でしかありません。

本当に大事なのは、AIに何を言うかだけではなく、AIにどの順番で考えさせるかです。

AIに成果物を作らせる前に、一度立ち止まってみる。

この資料は誰に向けたものか。何を決めるためのものか。読み手はどこで引っかかるか。作らない方がよいものは何か。AIに最初にやらせるべきなのは、本文作成なのか、論点整理なのか。

この一手を入れられるかどうかが、AIを使うのが上手いかどうかの差になっていくのではないかと思っています。

この記事をシェア