先日、Copilot for Microsoft 365 が中小企業向けに提供開始されました。SaaSに搭載されたAIということで大きな期待を集めると同時に、本当に価値を出せるのかと言う点も注目されています。そこで本日は Copilot for Microsoft 365 (以下、Copilot for M365)を使ってみてどうだったのかを、概要レベルで語ります。細かい点に関しては書ききれないので別ブログにします。
- 本ブログは2024年1月30日時点の情報を元に作成しています。
- 本ブログは筆者の個人的意見や見解に基づくものです。
- 主要な機能に関しては検証を終えましたが、プラグインの利用、様々なユースケースでの検討、外部データの活用等に関してはこれから検証の上、別ブログでまとめる予定です。Excelは日本語がサポートされておらず、現時点ではブログからは除外しています。
- 細かい話は Copilot for Microsoft 365 に関する FAQ にも記載しているので、そちらもご覧ください。
3行サマリー
- Copilot for M365 において、特にPower Pointの自動生成が非常に注目されていましたが、Power Pointの自動生成に関しては期待が高かった分、プロフェッショナルな用途では課題も多いように思います。
- しかし、1機能がプロフェッショナル用途で厳しいからと言って、Copilot for M365が使えないソリューションというわけではありません。GPT-4の利用頻度が高い組織や、Teams議事録やWord、Outlookの使用頻度が高い組織であれば、十分に利用料の元を取ってお釣りが来るレベルのものだと感じました。
- SaaSも生成AIもベンダー側の努力で日々賢くなることが特徴です。うまくいった点でビジネスを前に進めつつ、うまくいかなかった点はFBして、今後の成長に期待しましょう。
Copilot for M365とは?
Copilot for M365は、Microsoft 365エコシステムに組み込まれた生成AIアシスタントです。Office文書の作成からデータ分析まで、様々な作業をAIがサポートし、ユーザーの生産性を向上させます。2023年11月にエンタープライズ向けに提供開始され、2024年1月に中小企業向けにも展開が開始されました。
対象 | できること(概要) |
---|---|
Microsoft 365 Chat | チャットで指示を与えることでCopilotに組織のデータを探して来させて要約して表示したりできるようになります。 |
Teams | 会議の議事メモを作成したり、Teamsチャットの一連の流れの要約などを行ってくれます。 |
Word | 文章作成、編集、要約、作成を支援します。 |
Excel | データ分析やその後のグラフ化等の作業を支援してくれます。自然言語でCopilotに質問をすることで、相関関係を明らかにしたり、何かあった場合のシナリオを提案したり、あなたの質問に基づいた新しい数式を提案したりします。 |
PowerPoint | ユーザーのアイデアを鮮やかなプレゼンテーションに変えるお手伝いをしてくれます。既存の書類をスピーカーノートとソース付きのスライドに変換したり、シンプルなプロンプトや、ユーザー自作のアウトラインから新しいプレゼンテーションのドラフトを生成することができます。 |
Outlook | 返信の下書き等を書いてくれることで、メールの整理にかかる時間を減らし、より効率的にコミュニケーションを取ることができます。 |
Loop | 文章作成、編集、要約、作成を支援します。 |
Copilot for M365への極端な声
Copilot for M365は生成AIが搭載されたSaaSで最も注目を集めている製品だといっても過言ではありません。それだけに、Copilot for M365 のニュースはさまざまな人の目に触れ、「世界が変わる」という意見や、逆に「使い物にならないのでは」という両極端の意見が多いように観測をしています。
しかし、まず前提として押さえて起きたいのは「良い」「悪い」で表現できるほど単純な製品ではないということです。「XXというユースケースだったら使えるけど、YYというユースケースだと使えない」という複雑性はどの製品にもありますが、新しさと生成AIという性質が相待って、その傾向がより強いように見ています。本記事ではCopilot for M365を概要レベルでお伝えするものですが、その辺をバランス良くお伝えできたらと思っています。
1番期待のPower Pointの出来栄えは良くない
LT資料などでは使えるが・・・
多くのユーザーが最も期待していたのは、PowerPointの自動生成機能であろうと思います。Wordをアップロードしたり、プロンプトでの指示をするだけで、スライドを瞬く間に生成するマイクロソフトのデモ動画には心を踊らされた方も多いのではと思いますし、前職でパワポ職人をしていた私もその一員です。
こちらの機能ですが、コミュニティイベントのLT資料などフランクな資料の下書きを作成するには、有効に機能すると感じました。例えば「ゼロトラストについて初心者に説明するプレゼンテーションを作成して
」と指示を出すとラフなドラフトを作成してくれるので、これを元に、LT資料などを制作すると効率的です。
厳しいビジネスの場面だと?
一方で、厳しいビジネスの場面を想定すると、PowerPoint自動生成はまだ実用に耐えうるレベルには達していないと感じます。特に、PowerPointにはうるさいコンサル業界・SI業界・金融業界だと、フォーマット的な部分で期待値に満たない部分があり、自身でPowerPointを作成した方が良い結果を得られると思います。僕は基本的にChatGPTとPower Pointの「アウトライン表示機能」を使ってパワポ資料を作成しますが、ビジネスの場面でのアウトプットを想定するとこちらの方が断然いいです。以下がWordを使ったPower Pointの作成のデモ動画です。
ただ、完全に使えないかというとそうではなくて、パワーポイントの内容を要約する機能があるので、エグゼクティブサマリーの作成等を補助したりと、サポート役として使う用途は十分にありそうです。
Teams MTG の会議要約は圧巻
多様なCopilot for M365の中でも特に印象的だったのは、チーム会議の要約(議事録作成)機能です。まず、Copilotの機能ではないですがTeamsの文字起こし技術は日本語でもそれなりの精度です。一般的に日本語の文字起こしは難しいものですが、話者認識も簡単という土壌などを生かしつつ、高い精度で文字起こしをしてくれます。
そして、その文字起こしを利用した会議要約や、会議中にCopilotに今までの会議をまとめてもらう機能等の出来栄えは、忖度なく良いものだと感じました。私や他の検証メンバー、他社でCopilotを触っている知人も口を揃えて「Teamsが1番良い」と話します。
AI によって生成されます。必ず精度を確認してください。
会議のメモ:
- copilotのウェブレン系の検証:常時オンで使っていいという話になったので、不要になった。
- copilotの検証目的とリソース:copilotの価値を明らかにし、クラウドネイティブがどう取り組むかを見極める。notionにブログ記事やmsの公式リソースをまとめる。
- copilotの検証タスクと担当:基本ユースケースで分けて、Subaruがmsにデータ入れて検証する。Hirotomoが外部データ参照で検証する。Koheiがモニタリングを確認する。
- copilotのセキュリティとデータ連携:bingに送信されるデータはbingのポリシーで管理されるので、個人情報保護に注意する。ボックスのファイルを開くとエラーが起きるので、確認する。copilotスタジオとcopilotgbpsの機能を試す。
- copilotのチームスとの連携:チームスの文字起こしとqaが非常に評判がいい。チームスコネクトの検証もやる。Hirotomoがチームスのグループとエイリアスアドレスを作る。
- copilotの会議ノートとアクションリスト:チームスの会議ノートは自動でメモやアクションリストを生成する。copilotがトゥードゥーやフォローアップを提案する。ループに対してのcopilotの機能はまだない。
フォローアップ タスク:
とある社内会議でAIによって生成されたメモ。当然変なところはありますが、トピックの理解がやタスク抽出が凄まじい。
- Copilotの検証環境:MSのテナントでグループとチームを作成する (田口)
- Copilotの検証環境:メールのエイリアスアドレスを追加する (田口)
- Copilotの検証環境:Copilotの機能をエクセルやワードなどで試す (全員)
- Copilotの検証環境:Copilotの機能をチームスコネクトやボックス連携などで試す (全員)
- Copilotの検証結果:AIウィークリーで報告する (全員)
- Copilotの検証結果:会議のメモやトランスクリプトを共有する (光平)
Wordはビジネスユースでも役立つ出来栄え
Wordで文章を作成する際にドラフトを生成したり、表現を修正したりする機能は日本語での利用感も悪くありません。ゼロから文章を作成する際にも、Copilotに一般的なストーリーやコンテンツを生成してもらってから作業すると作業が格段に早くなるような印象を受けました。ChatGPT等を利用する場合には、Webブラウザに切り替えて指示を出す必要がありましたが、作業場所(Word)から離れずに、指示を出せるのはUX的にも悪くありません。
Outlookの下書き生成も指示出しとメール次第では良い
また、Outlookでメールの返信の下書きを作成してくれる機能も使い勝手がいいように思います。メールの返信作成にはトーン(ラフ・フォーマル)が指定できるので、それを指定した上で指示をすることで、ビジネスメールなどにも対応できます。当然、100%の回答は難しいですが、方向性を伝えれば下書きを作成してくれるので、下書きを元に修正すれば、メール返信の時間短縮になりそうです。
GPT-4の優先利用と組織内検索ができる「Microsoft 365 Chat」
「Microsoft 365 Chat」 では、平均的な AI チャット アプリと同様に、ChatGPTのようにGPT-4の力を利用してアウトプットを作成できます。無料版のCopilotの場合、ピーク時にGPT-4が使えない可能性がありますが、「Microsoft 365 Chat」 では優先アクセスが謳われています。さらに、チャット、メール、ファイルなどの仕事のコンテンツを組み込んで、コンテンツの下書きを作成したり、見逃した部分を補ったり、仕事上の特定の質問に対する答えを得ることができるという付加価値もあります。
正直、ここはMicrosoft 365アプリをがっつり使ってみないとわからない部分もあり、現時点ではその価値については計りかねています。しかしながら、検証プランも作っているので追ってアップデートしたいと思います。
プロンプトが応答しないとかの不具合はちらほら(MACだから?
PowerPoint等で、プロンプトを入力しても失敗になってしまうような不具合はチラホラ起きています。アプリを立ち上げ直して同じプロンプトを入れたら動いたりするので、発生条件は不明ですし、僕がMACを利用しているからかもしれませんが、安定稼働するようにFBを重ねたいと思います。
Copilot for M365で価値が出せる組織・人とは?
Copilot for M365 で価格以上の価値を出せるか否かは端的には「M365 Appをどれだけ使っているか?」という部分に大きく左右されます。(当たり前だ)その上で、もう少し解像度を上げて、Copilot for M365で価値が出せる組織・人の観点を個人的に整理してみました。
観点 | 説明 |
---|---|
GPT-4を使いこなせるかどうか? | Copilot for Microsoft 365には「Priority Model Access」1がついています。無料の「Copilot」ではピーク時に最新モデル(GPT-4)が使えないことがありますが、Copilot for Microsoft 365では優先的に上位モデルが使えます。GPT-4を日常的に使って業務を遂行している人が多ければ、月30ドルの大半は回収できるでしょう。 |
オンラインMTGツールとして Teamsを使っているかどうか? | 先ほど述べた通り、Teamsの会議要約の力は凄まじいものがあります。Teamsの会議要約だけでも、元を取れてしまう組織があるのではと感じるレベルです。 |
テキストコミュニケーション基盤としてOutlook・Teamsを使っているかどうか? | テキストコミュニケーション基盤としてTeamsを使っていると、コミュニケーション基盤の隣にAIがいてくれるため、シームレスにAIにアクセス可能となります。また、Outlookメールの返信の下書きはケースを見極めて適切な指示を出せれば業務の効率化に寄与するかと思います。 |
Word・Excel・PPT等で資料作成の頻度が多いか?また、ユーザーが元々使いこなせているか? | Word・Excel・PPTでの資料作成の頻度も重要なパラメータです。Word・Excel・PPTで資料作成する時間が長ければ、Copilotの恩恵を受けやすくなります。 |
従業員の時間単価が高いか? | 残酷かつ真っ当な話ではありますが、同じ1時間の業務削減でも時間単価が高い方の時間を削減した方が企業としてはインパクトがあります。単純計算では時給5000円程度の方だったら、その人の時間を1時間削減するだけで元を取れます。(そんなに単純に測れる話ではないですが目安として。) |
上記は費用対効果を説明しやすい価値です。例えば、Teamsの議事録機能を使うと、議事録作成の時間削減が見込めるので、情シスが決裁者に説明しやすいかと思います。一方で、それ以上に新しい業務のあり方について学習機会を得るという副次的な価値も存在すると考えています。
みんなルーキーに期待しすぎではないか?
Copilot for M365 は過大な期待を持たれている印象を受けています。しかし、Copilot for M365 は登場したばかりのソリューション(=新卒1年目のルーキー)です。そのことを忘れて大谷翔平の2023年シーズンばりの活躍を期待してはいないでしょうか?ルーキにそこまで期待するのも酷な話です。ちなみに大谷翔平ですらプロ1年目は3勝・4本塁打ですからね。1年目からホームラン40本打っていたわけではないと言うことです。
生成AIに過度な期待も極度な失望も厳禁です。ましてや、SaaSはユーザーからのFBを受けて、勝手に機能が追加されるところに価値があります。また、生成AIのモデルも日々向上し価格も安くなっている傾向があります。Copilot for M365 がフィットしそうなのであれば、過剰な期待などに踊らされず、今できることで投資を回収し、さらにFBを通じて良い製品に育つように支えていくスタンスが重要です。
突っ込んだ検証とFBは引き続きやっていきます!
本ブログでは主要なユースケースをざっと洗っただけですが、今後も各プロダクト単位で突っ込んだ検証やセキュリティ周りの検証を引き続きやっていこうと思います。あと、残念なことに既知の問題などもいくつか見つけているので、そちらに関してもFBしていきたいと思います。(投票もお願いします。)
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